雇用連情報 第54号

発行全国視覚障害者雇用促進連絡会
発行責任者田中章治


連絡先田中章治(会長)
〒334-0071 埼玉県川口市安行慈林645-4
電話 048-285-9935
電子メール koyourenアットマークnpo-jp.net
URL http://www.koyouren.npo-jp.net
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郵便振替 00150-4-67809(加入者名)全国視覚障害者雇用促進連絡会
発行日2008年 8月1日

(この情報誌は活字版(標準サイズ)、点字版、テープ版、フロッピーディスク版、電子メール版(雇用連メーリングリストで配信)で製作されています。必要な方はご連絡ください。)


目次

まえがき
厚生労働省交渉報告
視覚障害者の給料を上げてください
職場レポート
高知での公務員採用への取り組み
短信

まえがき

雇用連情報54号をお届けします。原稿の集まりが悪く昨年より発行次期が1箇月遅れてしまったことをお詫びいたします。


厚生労働省交渉報告

2008年3月19日(水)午後3時から5時まで、恒例の厚労省交渉を行いましたので、報告します。

平成20年3月19日
厚生労働大臣 舛添 要一様
全国視覚障害者雇用促進連絡会
会長 田中 章治

厚生労働省への要求

要求1. 参議院「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(2005年6月29日)では、「二、視覚障害者等就職の困難な障害者の雇用を促進するため、障害の重さの程度区分が職業生活上の困難さを配慮したものとなるよう障害者雇用率制度の見直しを行うとともに、障害者雇用納付金制度においては、納付金の額、徴収範囲、報奨金の在り方等についても見直しを行うこと。」とされています。また、国連で障害者権利条約が採択され、我が国においても昨年9月、署名されました。その中で職場においても障害をカバーする合理的配慮を行うことがうたわれています。これを踏まえ、これまで実績のある職域については一層の雇用促進につながるような施策を講じてください。また、新しい職域を開発する研究を促進してください。
回答: これまで実績のある職域については、昨年4月に通知を出し、ハローワーク担当者に意識をもって取り組んでいただくようにした。新しい職域については、高齢・障害者雇用支援機構より研究の進捗状況について情報をとったので説明する。
「職業的困難度からみた障害程度の評価に関する調査研究」では、平成13年度の障害児・者実態調査の再集計、厚生労働省職業安定局統計の確認、ハローワークに対するヒアリング、広域障害者職業センターと地域障害者職業センターに対するアンケート等によりデータを収集し分析している。結果は5月末に配布予定。「視覚障害者の雇用拡大のための支援施策に関する研究」では、視覚障害者の教育訓練状況、職業志向、就職支援に対する要望・ニーズを把握するための調査を全国の特別支援学校・職業訓練施設等に在籍する求職活動中の視覚障害者に対して調査している。平成20年度に報告書を取りまとめる。「重度身体障害者のアクセシビリティ改善による雇用促進に関する調査研究」では、平成19年度に車椅子使用の職業能力開発校在籍者を対象に通勤通学に関する意識調査を行うとともに、アクセシビリティに関する専門家からのヒアリング、関係学会やセミナーに出席する等情報収集に努めている。視覚障害者については上記をもとに平成20年度に個別調査を行いアクセシビリティ改善に関する課題を整理・検討することとしている。また、『障害者雇用マニュアル92号』を活用した事例の報告はハローワークに指示していないので、活用の実態はつかめていない。
要求2. 視覚障害者の雇用について、年次的にその推移をお示しください。
回答: ハローワークの紹介による視覚障害者の就職は年々伸びている。
視覚障害全体重度視覚障害
H161644938
H177951035
要求3. 国・地方公共団体は、特定身体障害者(視覚障害3級以下)に適用される特定職種(あん摩マッサージ指圧師)特定身体障害者雇用率100分の70を達成するため、法に基づく採用計画を作成し、すみやかに達成するようにしてください。また、同雇用率の達成が努力義務となっている民間企業に対しては、達成のための指導を強化し、必要に応じて雇い入れに関する計画の作成を命じてください。
特定身体障害者雇用率制度について、事業主及び障害者の双方に周知してください。
なお、特定身体障害者雇用率の達成状況について、年次推移をお示しください。
回答: 国・地方公共団体に対しては指導する。民間企業に対しても達成指導を行っている。年次推移のデータをいただいた。
要求4. 医療機関及び介護保険施設において、視覚障害者が働きやすいように職場介助者制度(非事務職)について、次の改善をはかってください。
(ア)医療機関及び介護保険施設においては、職場介助者制度(非事務職)を知らないことが多く、また、視覚障害者が職場介助者の委嘱を希望しても事業主が消極的な事例があるので、本制度について周知徹底をはかってください。
(イ)職場介助者制度(非事務職)に、配置を加えてください。
(ウ)職場介助者制度(非事務職)において、同一職場内に介助を受ける視覚障害者が複数いる場合に、一人の職場介助者が介助ができるようにしてください。
(エ)全雇用期間に対して、職場介助者を適用してください。
回答: (ア)窓口における相談指導、事業所用資料で周知している。全国会議でも適正な運用によって雇用促進がはかられるよう指導している。
(イ)そのように検討中。
(ウ)二人を介助しても矛盾がないのであれば考慮してもよいので、その旨雇用支援機構に伝える。
(エ)助成金全般について見直しを行っている。何年が適正かということは視覚障害の特性を考慮して検討したい。一定期間がすぎて障害の理解が進み軽減されるのか、全期間にわたって必要なのか、ほかの障害者との関連も考えながら検討したい。障害者権利条約の合理的配慮との関係も考えたい。
要求5. 病院マッサージ師や電話交換手などを解雇された視覚障害者に対する雇用対策を立て、再就職支援の他、ヘルスキーパーや事務的職種など新たな職域を開拓し、再就職のための支援を行ってください。
回答: 求人開拓を積極的に行い再就職支援を行っている。社内イントラネットを使えるようにハローワークを中心とした訓練施設などと連携・協力したチーム支援によりIT技術を取得してもらっている。
要求6. 障害者雇用納付金制度に基づく助成金及び障害者雇用継続助成金に基づく助成金の申請手続を簡素化してください。並びに、都道府県協会において、申請手続を熟知するよう指導し、申請に係る手続を丁寧に助言するようにしてください。
回答: 平成19年度にはホームページからダウンロードできる申請書の種類を29種類から33種類にした。都道府県協会の職員の接遇については毎年指導している。
要求7. 特定求職者雇用開発助成金制度の助成方式が、07年10月雇い入れ分以降、低率制から定額制になりましたが、従前の制度に戻し、助成機関を延長してください。
回答: 従来は雇用保険の額から算定していて、事業主から「この人を雇う場合いくらもらえるのか分からない」という声があった。より制度を活用していただくため定額制とした。
要求8. 障害者雇用関係の資料、例えば、働く広場、職域拡大等研究調査報告書、雇用マニュアル、職域拡大マニュアル、事例集等、障害者雇用ガイドブック、障害者の雇用支援のために、障害者雇用納付金制度のご案内、各種助成金のごあんない、調査研究報告書、資料シリーズ及び職リハネットワークについては、引き続き、電子化、点字化をすすめてください。すでに電子化又は点字化されたものについてのリスト及びそれらの入手方法についてお示しください。
回答: 雇用マニュアル92号は点字化・テキストファイル化されている。その他リストをお渡しする。依頼があれば文章部分のテキストファイルを雇用支援機構の方で提供する。
要求9. 以前から要望している視覚障害者が働く職場に訪問してのパソコン等のIT機器の操作指導について、06年度の回答の中で、「ジョブコーチが有効」との見解をうかがいました。これを実のあるものにするため、パソコンサポートの技術のある視覚障害者専門のジョブコーチを増やしてください。 (補足)視覚障害者(特に全盲者)は、画面読み上げソフトによって画面内容を確認しながらマウスを使わずキーボードのみでパソコンを操作します。この技術は単に通常の環境でのパソコン使用に精通しているだけで指導できるものではありません。
回答: 平成17年10月に職場適応援助者助成金を創設した。社会福祉法人等障害者への就労支援の実績のある機関で指定団体となっているものが申請すれば職場適応援助者を配置しジョブコーチによる支援ができるようになった。しかしながら視覚障害者に対応できるジョブコーチが少ないということは事実。今後指定団体となれる団体から相談があれば助成金制度を活用しジョブコーチを増やすことができる。同時に事例検討をしていきたい。
要求10. 「障害を有する職員が受けるリハビリテーションについて」(平成19年1月29日、人事院通知)により、国家公務員である中途障害者が職務を遂行するために必要なリハビリテーションについては、病気休暇や研修制度の中で受けることが可能となりました。これに準じた取り扱いがされるよう、民間企業に働きかけてください。特に、「モデル就業規則」に、同内容が盛り込まれるように配慮してください。
回答: 基本は、労使間で決めるべきものである。「モデル就業規則」は民間企業の就業規則の雛形として示したものである。次回改定時に反映させたい。
要求11. 民間に模範を示す意味からも公務員である視覚障害者への職場介助者制度を創設するよう、人事院にはたらきかけてください。
回答: 民間に模範を示すという趣旨は理解している。国家公務員採用試験等が点字で実施されていることから、人事院とも協力しつつ、今後とも視覚障害者の働く環境や支援のあり方について、適宜各省庁に広報し、理解を求めていく。
要求12. 視覚障害者の職場定着・安定のために、特定の職業安定所に視覚障害者の雇用を専門に担当する相談員を配置してください。
回答: ハローワークに障害者職業相談員(障害者専門支援員、障害者相談担当)を配置し、障害者の職場定着に努めている。2007年4月17日付、「視覚障害者に対する的確な雇用支援について」と題する通知を出したが、ようやくその効果が現れつつある。現在、それらの事例の把握に努めているところである。地域の関係施設等社会資源との密接な連携によるチームによる支援、ハローワークの障害者担当職員の研修内容のくふうをしていきたい。結論的には、視覚障害者の雇用を専門に担当する相談員の配置はしていないが、対応はできると思う。
要求13. 「福祉施設における視覚障害者の雇用促進のための障害者雇用マニュアル」が改訂されました。その後の介護保険施設における視覚障害者機能訓練指導員に対する雇用促進への厚生労働省と各都道府県の取り組みについてお示しください。
回答: 本年1月15日に開催された全国労働局障害者雇用担当官会議等の席上、 周知徹底を図った。現場においてもさまざまなくふうや、意識付けをしている。
要求14. 昨年4月より介護老人福祉施設において個別機能訓練加算となり、個別機能訓練計画書が義務づけられました。現在の各施設の個別機能訓練計画書では視覚障害者が使用できず働き続けることが困難な状況になっています。個別機能訓練計画書を視覚障害者が使えるような書式や音声対応にしてください。盲人が扱える書式にしてください。
回答: 使いやすい様式例について検討したが、定めてしまうと固定されるので示していない。
雇用連:東京都では書式を定める方向。書式が出てしまってから使えないのでは困る。
要求15. 介護保険下における個別機能訓練加算を増額してください。
回答: 加算は、一人に見合った人件費となっている。事業所の経営実態を踏まえながら社会保障審議会介護給付金分科会で御議論いただきながら適切に決定していきたい。
要求16. 「医療機関における視覚障害者であるマッサージ師の障害者雇用マニュアル」を作成してください。
回答:(明確な回答はなし)
要求17.診療報酬における、「消炎鎮痛等処置」(手技による療法)点数を増額してください。
回答:単純な増点は難しい。平成20年度改定で、リハビリテーションのなかであんま・マッサージ師の方々が参加して、ある一定の点数を算定できるようにしている。
(文責 田中章治)

視覚障害者の給料を上げてください

安田 英俊

昨年の11月から雇用連にお世話になることになった八王子盲学校の安田と申します。よろしくお願いします。

今回は関東甲信越地区の盲学校等で毎年行っている進路実態調査の中から少しお話をさせていただきます。

以下のグラフの左側平成18年度の当地区盲学校等卒業生の初任給を表したものです。一方右側は晴眼者の団体、東洋療法学校協会が同じく18年度に学校卒業後1年から4年の者までを対象に給与実態を調査したものです。初任給か1から4年目の給料かの違いがあるので一概に比較はできませんが晴眼者あはき師の給与水準ピークが20?25万(26.1%)あるのに対し、視覚に障害のある新卒あはき師のそれは14?16万(17.4%)にとどまっています。

視覚障害あはき師の場合、個々の身体的状況等の要素が存在するため、取得給与額の違いを単純な格差として比較・考察することはできないかもしれません。しかし、視覚障害者の職業および経済的自立双方を実現させるためにはもう少し給与水準が上がる必要があります。総務省統計局家計調査を見ても生産人口に属する者が世帯を構え経済的自立を図ることができるラインは年間総収入300万円がボーダーと記載されています。一般に三療職種は年齢・社会経験に応じた給与体系を採用しておらず、卒業者の多くが「新卒」という枠で就業し始める実態にあります。しかし、卒業する生徒の実態はというと働き盛りの年齢層に集中しているのです。これまで家庭を支え、一家の大黒柱として頑張って働いてきた世代の人たちが糖尿病や緑内障、網膜色素変性症などで視力障害に陥るケースが急増しています。まだまだこれから息子・娘にお金が必要なこの世代の人たちが高卒とほぼ同じ、月給15、6万で就労しているのが現実です。これからもこうした現状を打開すべく、皆さんと協力して運動を推進することができればと考えています。

ちなみに、最近のあんま・はり・きゅうにおける視覚障害者の雇用状況ですが、マッサージ師の雇用求人は職種さえ選ばなければかなりたくさんあります。企業におけるヘルスキーパー雇用は増加の一途をたどっていますし、片麻痺のお年寄りの家を訪ねて施術するいわゆる訪問マッサージなどの雇用もかなり多くみられます。一方、はり・きゅうの免許を生かした就職口はなかなか見つからないのが現状です。町の接骨院などではり・きゅう施術を提供しているところの募集はありますが、ほとんどが晴眼者による経営ですから従業員を募集する上で視覚障害者は対象外になっています。

と、色々書きたいことはたくさんあるのですが、こうしたことは書き始めると長くなるので又の機会にします。

[平成18年度 関東甲信越地区盲学校等卒業生の初任給]

平成18年度 関東甲信越地区盲学校等卒業生の初任給

職場レポート

2006年度専攻科保健理療科卒業生 金子 拓生、穴澤 順

今回は埼玉県立盲学校の「卒業生便り」からレポートを二つお送りします。

今回の卒業生便りは金子さんと穴澤さんにお伺いします。


Q1:勤務内容について教えてください。
金子:私は現在、新宿にある「クラブツーリズム」という会社に勤務しています。12時から3時までは会社の派遣で、大田区のデイサービスにいきます。そこでは、坐位の10分施術を15・20人行います。その後、新宿にある会社に戻り、会社附属の治療院で3・4人施術し、勤務終了は夜の8時になります。
穴澤:私の勤務する「ランダルコーポレーション」は福祉器機の制作・販売・レンタルを行う会社です。1階にあるデイサービスにてご利用者様にマッサージを行うのが私の仕事です。勤務時間は11時30分から4時20分で1日30人のご利用者様をマッサージします。
Q2:職場には何名のマッサージ師が勤務していますか?
金子:マッサージ師は4人勤務しています。全員、視覚障害者で、普通科を卒業した田島さんも勤務しています。みんなとても仲がよく、お互い協力しながら楽しく勤務しています。
穴澤:マッサージ師は自分1人だけです。ですが、スタッフの方々(ヘルパー、看護士)が皆よい人たちばかりでとても助かっています。
Q3:職場で困ったことや苦労した点などありますか?
金子:特にありません。ただ、移動が多いので体力的に疲れます。施術をするよりも移動の方が疲れるかな。
穴澤:ご利用者様の名前を覚える事ですね。顔が見えないので声だけで30人のご利用者様の名前を覚えるのはなかなかつらいものがあります。また、カルテや日誌が墨字のものしかないので……ですので、正式なカルテではありませんが、自分で簡単なカルテを作っています。
後は、ご利用者様の表情がわからないということです。ご利用者様のなかには、コミュニケーションをとる事が難しい方も多くいらっしゃいます。そのような方に施術をしていると、満足していただけているのだろうか?と不安になってきます。
Q4:専攻科の在校生に何かアドバイスはありますか?
金子:当然の事ですが、指をしっかり鍛えた方がよいということです。働いて、もう少しで1年になりますが、今でも指が痛くなります。デイサービスでは、弱揉みですし、高齢者という事で喜んでもらえます。しかし、治療院ではかなり強く押さないと満足してもらえません。強い力で何人も施術すると本当に指が痛くなります。1・2年生は今からしっかりと指を作っていった方がよいと思います。また、3年生は校内臨床が終わると施術をしなくなりますが、毎日少しでもいいので指を使い鍛える必要があると思います。
それと、体力をつける事です。私の場合、自宅を出てから自宅に帰るまでほとんど立ちっぱなしです。移動中も座れません。はじめの頃は、自宅に帰っても疲れて、すぐ寝ていました。 指の力はもちろんの事、体力もすぐにつくものではありません。時間をかけてしっかりと鍛えてください。
穴澤:国家試験のための暗記する勉強も必要ですが、しっかりと理解した勉強が重要です。適当に勉強して合格しても何も身になりません。私は、国家試験に落ち、1年間受験クラスで勉強しました。ですが、逆にそれがよかったと思っています。まぐれに合格でもしていたら、何もわからず適当なことを話しながら、適当に施術をしていたのではないでしょうか。覚える事が多く、大変だとは思いますが、毎日こつこつと勉強するのが重要だと思います。

平成18年度 専攻科理療科卒 木村 優輔

私は今年の3月にあはき師の免許を取り、マイクロソフト株式会社でヘルスキーパーとして働いています。

ヘルスキーパーとは会社・企業において従業員の皆様にマッサージ・鍼・灸施術などを行う専門職です。近年OA機器の導入や長時間のデスクワークにより肩こり、腰痛などを訴える方、また職場環境によりストレスを抱える方が増えてきました。このような背景からマッサージなどによって心身共にリフレッシュしていただくことで、従業員の作業能率の向上を目的として会社に貢献する仕事です。学生のときのイメージとしてはお給料が安定してもらえ労働時間が決まっている中でマッサージをすればいいというものでした。確かにお給料も安定し、労働時間は7時間30分で残業はほとんどなく、1日5・6人にマッサージまたはフットオイルマッサージを行っています。しかし、私がイメージしていた以上に仕事が多く、施術以外では各支社が情報共有するためのミーティング、外資系の企業ということもあり英語研修などもあります。またマッサージ師としての技術向上や マッサージ師と会社員の二面性を持つヘルスキーパーとしてのコミュニケーションの難しさを感じています。今は1日でも早く仕事を覚えられるようがんばっています。


高知での公務員採用への取り組み

正岡 光雄

1 二つの集会から

「県、障害者採用進まず、点字試験導入無し。雇用率全国最下位」(071025高知新聞)

私達高知の視覚障害者は10月13日終に立ち上がった。「全視協参加の高知の会」結成以来、約40年間出し続け、その回答は変わらなかった。曰く「視覚障害者に担当してもらえる様な仕事は現段階で見つかっていない。今後は他の地域の実情を踏まえつつ検討したい。」その数年後から追加された、「点字試験導入は問題の点訳に時間がかかり、実施には多くの困難がある。」とともに同様であった。既に22都道府県が導入に踏み切っているはずである。

吉岡邦弘君は高知大学在学中に失明「全盲」、点字や音声パソコン習得のため暫く休学した後、7年掛けて卒業した。それから生活訓練や更なるパソコンスキルアップで日本ライトハウスにおいて2年間始業し高知に帰って就職運動に着手したのは年齢制限ぎりぎりの29歳だった。しかし彼の求める公務員の点字試験は高知県、高知市ともに実施を拒んでいた。障害者の別枠採用は既に行われていたが視覚障害者は門前払いだった。障高連(障全協参加の高知の会)の呼びかけで県身連(日身連参加の高知の会)及び高知女子大学の関係者を中心に「あなたと障害者の雇用を考える集い」を開催した。先ずタートルの肩書で工藤さんに講演をお願いし、その後吉岡君ほか数人によるパネルディスカッションが行われた。さらに同27日にも「第34回障害者問題を考える四国集会in高知」もあり、ともに障害者雇用をテーマに選んだ。両集会において「高知における公務員の点字試験」問題が大きく取り上げられた。

一方25日には私達の要求で、県庁職員を対象とする視覚障害者による、「音声ソフトを活用した、パソコンの実演」も行われた。

これら一連のイベントは地元紙高知新聞他多くのマスコミで連日報じられ、大きな関心を呼んだ。

「視覚障害者の力知って!県採用点字導入無し。県庁で、PC披露」(071025高知新聞)

13日の会では労働局のパネラーから「点字試験については行政を指導する」との発言もあったが、 「交渉」での回答には殆ど前進は見られなかった。

このような状況の下で新たなるダイナミックな行動の必要性を強く認識した。


2 吉岡君先頭に「高知県視覚障害者の就労を促進する会」結成へ

2月10日、呼びかけ人6名で上記の会を結成した。恩師の大学教授(田中きよむ)、元点字図書館館長(渡辺進)、それに吉岡君を含む3名の視覚障害者だった。

呼びかけ文の中で、@視覚障害者の民間での採用はまだ極めて少ない。A働く視覚障害者の殆どが按摩針灸に限定されている。B中途視覚障害者には点字や音声パソコンのスキルアップ等訓練のため年齢制限の引き上げが必要である。C障害者採用では行政が民間の模範になるべきである。等の内容であった。基調講演では日本ライトハウスの津田先生が「行政や民間の視覚障害者の就労状況」について詳しく説明された。会場の点字図書館は、視覚障害者をはじめ、点字図書館ボランティア、労働組合関係では県庁や市役所の職員、教員等110名で、満席だった。

吉岡君のパソコン実演も好評だった。

会長に吉岡君を選び、実現するまで頑張ることを確認した。集会に先だって全視協メーリングリストを通じて、沢山の激励メールも届いた。「3団体、27通の個人メール」「山崎、吉岡の背中を押します。あんたがやるしかなかとです、戦う仲間は応援しとりますばい」(福岡山崎)

「視覚障害者の働く場を。明日高知市「促進団体」立ち上げ。県に点字試験導入も訴え。」(高知新聞0729)等のマスコミ報道も積極的だった。行動提起では@知事及び高知市長宛の要請署名「特に街頭署名に力を入れる」行動 A県及び高知市議会への請願 B引き続き行政交渉 Cニュース発行その後間もなく持たれた、事務局会において決定されたこととして D点字、普通字併記のジャンボ葉書作成と全国への普及も加えて矢継ぎ早に奮闘した。


3 「結成」後の主な活動

@両議会への請願

開会が間近に迫っていた両議会請願受付締め切りを考え、各会派、労動組合や障害者団体をまわりお願いした。しかし請願文作成や印刷は不慣れなため何度もやり直す場面もあった。殆どの会派及び13団体の賛同を得た。後は議会の傍聴である。

私達は本会議や総務委員会を中心に熱心に傍聴した。両議会総務委員会では私達の願いに答えて吉岡君の「意見陳述」を認めてくれた。私達はインターネット等を通じてデータを集めてかなり膨大な資料集を作成して総務委員会メンバー全員に配布した。 殆どの者はこのような活動は初めてであった。特に吉岡君は意見陳述など晴天の霹靂であった、しかし皆頑張った。その熱意は議員にも伝わったのだと思う。


A 「要請署名」

1 街頭署名

もちろんこれも多くのものは初体験であった吉岡君も最初やや震えながらマイクを握り道行く人々に訴え続けた。高知市の目抜き通りにおいて、約2週間に1回の割合で5月30日予定の分を含めて合計7回に渡って実施し、毎回10名を上回る参加で、各回300筆を超える署名を集めた。回を重ねるごとに市民の関心の高まりを実感した。また募金も必ず箱に入れられていて、1,000円から7,000円に達している。街頭の方達は吉岡君に同伴している「盲導犬」にまで激励を送っていた。

2 団体や個人からの署名

自治労はじめ労働組合からの署名はお手のものなのが沢山寄せられた。点字図書館のボランティアの方からも続々届けられた。

 

3 署名簿提出

集まった署名はそれぞれ8,000筆を超えた。2度に分けて、それぞれ知事、市長に直接手渡す機会を作ってもらった。その際私達の要求に理解を求めた。


B ニュース発行

第1回街頭署名行動(2月24日)にさきだっての19日。No.1を皮きりに作成され、各議会議員や賛同団体、あるいは図書館、文化施設等さらに関心のある人々を含めて毎回1,000部以上配布した。


C ジャンボ葉書

宛先は知事、市長、議会議長、総務委員で1セット、10人であった。全国約600セットの協力があり、一方受け取った議員たちは驚嘆し葉書を携えて 私達に応対した。


3 採択

念願の採択は両議会とも3月に私達の傍聴する中で行われた。採択後、各会派をまわりお礼の挨拶を行った。この間のマスコミ報道で最も注目すべきは、「点字試験、視覚障害者採用、県が本腰。年度内にも。6,000人が後押し。」(毎日新聞080413)であろう。

私達は終に勝利しました。長い長い戦いでした。吉岡君の採用実現にはまだ時間が掛かるかも知れない。しかしそれより早く私達は素晴らしい活動家集団を手にすることができた。「人は活動の中で生まれ変わる。」これは最近の私達の合言葉である。全国の皆様熱烈な激励ご支援まことにありがとうございました。今後とも更なる後押しをお願いいたします。もちろん、まだ実現には幾つかの壁がある。しかし私たちは諦めず奮闘したい。


(追加情報)

転載許諾をいただきましたので、毎日新聞高知版の4月13日の記事を掲載します。


県内の視覚障害者たちが、県や高知市の職員採用に点字試験の導入を求めている。

県はこれまで「採用後の仕事が見いだせない」と点字試験が必要な重度の視覚障害者を採用してこなかった。しかし、2月定例県議会で障害者たちが提出した請願が採択され、早ければ今年度中にも点字試験が実施される見込みとなっている。障害者たちの熱意が行政を動かしつつある。

(服部陽)


■請願提出

「採用の門戸を広げてほしい」。3月12日の県議会総務委員会。請願を出した「県視覚障害者の就労を促進する会」の会長、吉岡邦広さん(30)が県幹部や議員を前に訴えた。同会は視覚障害者ら約100人で今年2月に発足した。全盲の吉岡さんの場合、就職活動で民間企業約200社に問い合わせても、応募できたのは20社ほど。「応募さえできないのはショックでした」と振り返る。

吉岡さんは高知大生だった20歳の時、緑内障で失明した。「障害を理由に何からも逃げるのは嫌だった」と病気の治療に合わせ点字の学習、歩行訓練などを積み、大学を7年がかりで卒業した。

卒業後も就職に向けて大阪市内で1人暮らしをしながら訓練所に通い、点字やパソコンのスキルを磨いた。それでも企業は、「どんな仕事をしてもらったらいいのか」「職場まで階段を上るのは危ない」などと理由をつけて応募は断られた 。 「障害者への理解自体が進んでいない。まずは接してもらって、どんな仕事ができるか見てほしい」と語る。

■自治体の責任

県は04年度に初めて、県立病院の医療ソーシャルワーカーとして身体障害者を採用。知事部局では今春、一般事務職で2人が入庁した。しかし、重度の視覚障害者は採用しておらず、点字での試験も実施していない。

県によると、点字試験は全国の21都道府県で実施されている。千葉県では視覚障害者の採用を90年度から始め、3?4年に1回のペースで採用。3つある県立図書館にそれぞれ1人ずつ配置し、音読のサービスや点字図書の制作など障害者向けのサービス拡大に努める。また、神奈川県では80年度から点字試験を導入し、採用者には希望があれば、非常勤の「ワーキングアシスタント」をつけ、文書を読み上げたり、書類の整理を手伝うなどの支援をしている。同県人事課は「視覚障害者の職域を広げるのは自治体の責任だ」とする。

■仕事は余るほど

請願の採択を受け、県は他の都道府県での仕事内容を調査し始めた。早ければ、6月定例県議会に今年度中の試験実施に向けた補正予算を提案する。県人事課は「活躍できる職域を見いだし、前向きに検討したい」と話す。

全国視覚障害者雇用促進連絡会会長で、30年以上前、東京都が全国に先駆けて実施した点字試験で採用され、今も都立中央図書館(港区)で働く田中章治さん(62)は、「仕事はあり余るほどある。障害者の視点を生かすことで、よりよいサービスができるはずです」と指摘する。

県視覚障害者の就労を促進する会は、これまでの約6,000人分の署名を集めたが、点字試験が実施されるまで街頭で協力を呼びかけ続ける方針だ。点字試験が導入されたらすぐ受験するつもりだという吉岡さん。ただ障害といっても、その程度や種類はさまざま。「仕事を障害者にあてはめるのではなく、障害者に合った仕事を組み立てられたら理想。まずは互いに歩み寄って理解することが大切です」と力を込めた。


短信

1 大阪府は、去る4月16日、今年度実施する職員採用試験において、「音声パソコンによる出題方式を導入する」という発表を行いました。これは、画面に表示される問題文を音声でも伝えるシステムで、点字との併用が認められたことになります。かねてから、大学4年に在籍するYさんが要望していたもので、都道府県では初めての試みです。


2 視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)が発足しました。
事務局長の方に以下の紹介文をいただきました。


「この度、視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)を発足させました。2001年の欠格条項の緩和により、視覚障害者にも多くの職種への可能性が広がりました。しかし実際に病院等の医療現場において、視覚障害をもちながら仕事をめることは厳しいものです。その中で、あはき業(鍼灸マッサージ)に関しては、すでに多くの関係団体が活動していますが、それ以外の職種については、視覚障害をもつ医療従事者の団体はありません。医師や看護士を含め、視覚障害をもつ医療関係者を中心に、各自の持つ問題を共有すること、そして社会に働きかけていくことを中心に活動していきます。」

お問い合わせ
「視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)」
電話 03-3789-2195(戸田) (21時まで)
事務局: 大里晃弘



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