雇用連情報 第51号

発行 全国視覚障害者雇用促進連絡会
発行責任者 田中章治


連絡先 田中章治(会長)
〒334-0071 埼玉県川口市安行慈林645-4
電話 048-285-9935
電子メール koyourenアットマークnpo-jp.net
URL http://www.koyouren.npo-jp.net
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郵便振替 00150-4-67809(加入者名)全国視覚障害者雇用促進連絡会
発行日 2005年 6月1日


(この情報誌は活字版(標準サイズ)、点字版、テープ版、フロッピーディスク版、電子メール版(雇用連メーリングリストで配信)で製作されています。必要な方はご連絡ください。)



目次

厚生労働省交渉報告
シンポジウム報告
ヘルスキーパーは、今
私の職場
静岡市ワーク春日のご紹介
全国視覚障害教師の会のご紹介



厚生労働省交渉報告

2004年12月2日、恒例の厚生労働省交渉を行いました。

厚生労働省側からは、職業安定局から矢野(障害者雇用対策課調整係長)、工藤(同障害者雇用専門官)、大塚(主席業務指導官室職業紹介係長)、老人保健局からは橋本(老人保健課介護報酬担当)が出席しました。(敬称略)

以下要望項目に沿って回答を記します。

平成16年12月2日
厚生労働大臣
尾辻 秀久様
全国視覚障害者雇用促進連絡会
会長 田中 章治

厚生労働省への要求

<雇用の促進及び安定>
要求1. 平成15年度障害者雇用実態調査を分析し(過去5年前に比較し視覚障害者の就職者数が激減している)、視覚障害者の雇用・就労のための抜本的施策を講じてください。
回答: 視覚障害者の就業者は 18,000人で5年前の前回調査から大きく減少しております。これについて分析すると、まず高齢化によって就労年齢人口自体が(身体障害全体にいえることですが)減ったこと、経済産業構造の変化と価値感の多様化によって常用雇用ではなく派遣、請け負い、有期雇用、パートタイムといった多様な雇用形態が広がってきたので、その辺の影響もあるのではないかと思っています。ただ、平成10年度の労働者数 43,000人という数字がサンプル調査ということで多めにでてしまったのではないかということはいえると思います。しかし、15年度が10年度に比べて6割減っているということなので、視覚障害者がより就職しやすくなるようにいろいろと対応は検討していきたいと考えています。
要求2. 国・地方公共団体は、特定身体障害者(視覚障害3級以下)に適用される特定職種(あん摩マッサージ指圧師)特定身体障害者雇用率100分の70を達成するため、法に基づく採用計画を作成し、すみやかに達成すること。また、同雇用率の達成が努力義務となっている民間企業に対しては、達成のための指導を強化し、必要に応じて雇い入れに関する計画の作成を命じること。 回答: 毎年6月の「障害者雇用状況報告」に合わせて特定身体障害者の雇用状況についても報告をいただいています。なかなか完全に達成していないので指導したいと思っています。また民間企業についても雇い入れ計画を作成させるなど達成のための指導を実施していきたいと思っています。
要求3. 報奨金制度については、保険医療機関の場合、その支給要件を緩和すること。
回答: 報奨金は常用労働者300人以下の中小企業の事業主に支給しています。これはもともと中小企業からは雇用納付金を徴収していないけれども、障害者雇用に理解のあるところについては財源負担の軽減化という目的で報奨金というかたちで支給させていただいています。その性格上、どの業種でも障害者雇用にご理解いただいている中小企業には統一的に納付金が支払われるべきだと考えておりますので、保険医療機関だけの要件緩和というのは、なかなか現状として難しいのではないかという風に思っております。
要求4. 職場介助者制度について次の改善を行うこと。
(ア)職場介助者制度(非事務職)を知らない保健医療機関である事業主が多く、また、視覚障害者が職場介助者の委嘱を希望しても事業主が消極的な事例があるので、保健医療機関への周知徹底を図ること。
回答: 保険医療機関はその性格上患者さんのデリケートな個人情報を取り扱うお仕事をされていると思いますので、職場介助者を外部から招いて活用するというのは、個人情報保護という観点からも保険医療機関の方で抵抗される傾向はあるんじゃないかと思っております。ただし、職場介助者を配置していただくメリットはあるので、消極的な所の事例があれば最寄りの職業安定所とか高齢・障害者雇用支援機構の方にご相談いただければ、対応させていただきたいと思います。

(イ)全雇用期間に対して、職場介助者(非事務職)を適用すること。
回答: 障害者雇用納付金制度は、事業主が障害者雇用にご理解いただいて、それに対して経済的負担を軽減するため助成金制度を設けている性格上、仕組み的に未来永劫支給するのがやりにくいかたちになっています。これはすべての助成金にいえることです。全雇用期間への拡大は難しいのですが、支給期間10年間というのは見直しは必要であればやっていきたいと思っています。
要求5. 公共職業安定所の求人票のうち、あん摩マッサージ指圧師のそれには、「免許があればなおよい」「有免許者優遇」「無免許者も可」など、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)第1条違反を助長する内容のものが横行しています。これは、「公共職業安定所は、いかなる求人の申込も、これを受理しなければならない。但し、その申込の内容が法令に違反するとき、又はその申込の内容をなす賃金、労働時間その他の労働条件が、通常の労働条件と比べて、著しく不適当であると認めるときは、その申込を受理しないことができる。」に抵触すると思われます。またこの求人票による職業斡旋は、「公共職業安定所は、いかなる求職の申込についても、これを受理しなければならない。但し、その申込の内容が法令に違反するときは、その申込を受理しないことができる。」に抵触するものと思われます。このようなことのないようにしてください。
(事務連絡、平成14年11月19日付け、各労働局職業安定課職業紹介担当官宛、厚生労働省職業安定局業務指導課職業紹介係より「あん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゅうに係る求人票の記載について」なる通知が出されたことは感謝申し上げるが、以前として内容に疑問を感じる求人票が横行しています。)
回答: 違反のある求人など問題があれば受理しないようきちんと取り扱うよう地方には指導しているところです。先月11月26日から「総合的雇用情報システム」の機能が一部拡充され、問題のある求人の情報が全国で共有できるようになりました。
要求6. 病院マッサージ師(あはき師)や電話交換手など解雇された視覚障害者に対する雇用対策をたて、再就職支援のほか、ヘルスキーパーや事務的職種など新たな職域を開拓し、再就職のための支援を行ってください。
回答: 年度内に事例集を作り、視覚に障害をお持ちの方でもこういう職場改善をすれば雇用することができるんだ、というかたちでの配布・啓発活動に努めたいと思っております。それ以外にも、すでに作成済みの雇用マニュアルなども活用しながら、視覚に障害をお持ちの方の雇用確保とか就職支援に対する対応をいろんな機会を通じて事業主さんのご理解をいただくように努力してまいりたいと思っています。新たな職域拡大につきましては、他の障害の分野も含めて高齢・障害者雇用支援機構の方で、どのような職域拡大ができるか調査研究を行っていまして、その結果も踏まえて引き続き職域拡大についての検討を進めていきたいと思っています。
<助成金の申請手続>
要求7. 障害者雇用納付金制度に基づく助成金及び障害者雇用継続助成金に基づく助成金の申請手続を簡素化してください。並びに、都道府県協会において、申請手続を熟知するよう指導し、及び申請に係る手続を丁寧に助言するようにしてください。
回答: 助成金の申請について、公共職業安定所長の意見書の提出を求めることを廃止しました。また、申請を電子媒体で行えるよう検討しています。支給基準などはパンフレットや高齢・障害者雇用支援機構のホームページにできるだけ詳細にわかりやすく記載するよう努力しております。ご要望のなかで都道府県の担当者の応接について若干問題があるように読みとれるところもあったんですけれども、このように不快な印象を与えていることがあったことにつきましては深くお詫びしたいと思います。このようなことがないように手続き窓口については周知徹底を図っていきたいと思います。
<雇用関係書の点字化等>
要求8. 次のものについて、点字化等を図ってください。
(ア)「障害者雇用ガイドブック」を電子化(点字版及びテキスト版)にしてください。
回答: 高齢・障害者雇用支援機構のホームページに「障害者雇用ガイドブック」の内容を掲載する予定で準備しています。

(イ) 障害者の雇用関係資料である、障害者職域拡大等研究調査報告書、障害者雇用マニュアル、障害者職域拡大マニュアル及び障害者雇用管理等講習資料シリーズで、すでに電子データ化(点字版及びテキスト版)されたもののリストを教えてください。
回答: 数が多いので一覧にしたものをテキストファイルでフロッピーでお持ちしたのでご覧いただきたいと思います。
<IT機器の訪問指導>
要求9. 視覚障害者が働く職場に訪問して、パソコン等のIT機器の操作について専門的に指導する制度を実施してください。訪問指導の必要な理由を以下に示します。
(ア)現在、社内ネットワークへのスクリーンリーダー(画面読み上げソフト)によるアクセスが困難なケースが多い状況です。見ることのみを前提としたグラフィックの多い画面であることに加え、セキュリティ等の観点から高度な技術が使われていてマウスを使わずキーボードのみを使用した操作をするには卓越した指導員による操作法の研究が必要です。そのことはネットワークに接続可能な社内でしかできません。
(イ)視覚障害者が他の社員と文書をやりとりする場合、パソコンによるファイルの授受が重要な役割を果たします。その場合、図表が多かったり、レイアウトが複雑だったりする文書だと音声で(テキスト部分も含めて)読み上げないことがあります。同僚や上司にも視覚障害者のパソコン利用について理解してもらう必要があるため、社内での指導が必要です。
(ウ)マウスを使わない操作には限界があるので、視覚障害者が担当する業務内容を調べ、それに必要な技術を集中的に学習する必要があります。単にコンピュータ操作の学習のみならず業務分析が必要なので、指導員が出張してコーディネートする必要があります。
(エ)(ア)〜(ウ)を実施する中から、周囲の人が視覚障害があってもパソコンを使えば仕事の幅を広げることができることに気づくということもあるでしょう。
それによってこれまで以上に担当できる業務内容が広がる可能性があります。
回答: 切実なご要望だと思います。ただ、事業所に訪問してパソコン指導をする仕組みについて、民間企業の取り組みも含めて完全に把握しきれていないので調査したいと思います。気になるのは事業所に訪問となると機密保持の関係も弱冠あると思いますので、事業所への理解も同時に進めていかなければならないと思います。
<中途視覚障害者対策>
要求10. 中途視覚障害者が解雇されたり、不安定雇用にならないよう、「障害者差別禁止法」(仮称)を制定するとともに、中途障害リハビリ期間中の所得保障等を実施してください。
回答: 諸外国の差別禁止法としてはアメリカのADA法があるが、これは最終的には裁判によって障害者差別についての紛争を解決する枠組みを基本としております。裁判制度が発達したアメリカであれば有効だと思いますが、日本で同じようなことをした場合、(1)障害者自らが告発することになり、かなりの時間と労力を要することになり、負担が大きくなる懸念がある、(2)ADA法でみた場合、重度障害者は採用の対象となる能力が不足しているということで排除されることがあるみたいなので、日本でこの制度を採用すると、より雇用促進が後退してしまう恐れがあるのではないかと懸念しています。
<公務員である視覚障害者の職場介助者>
要求11. かつて労働省は、公務員である視覚障害者の職場介助者の配置について、人事院と相談することを約束しましたが、この件について、その後の経過を教えてください。
回答: 全省庁に対して毎年「障害者の積極的採用等について」という文書を出していて、その中で採用促進と雇用継続のための職場環境改善をお願いしています。
<視覚障害者担当相談員の配置>
要求12. 視覚障害者の職場定着・安定のために、特定の職業安定所に視覚障害者の雇用を専門に担当する相談員を配置してください。
回答: 各安定所に身体障害者担当の職業相談員を配置しています。人員面の関係もあり、どうしても視覚障害者に限定した相談員の配置は難しいのですが、身体障害者担当の相談員を有効に活用してほしいと思います。
<介護保険導入下のマッサ−ジ師>
要求13. 都道府県労働局職業安定部長宛「視覚障害者の雇用の促進について」の通達について、各都道府県の取り組みを教えてください。
回答: 2004年9月の調査で、公共職業安定所の紹介で特別養護老人ホーム等に就職した方は、17県で37人でした。安定所の現場の職員は、新しく施設をオープンする社会福祉法人へ新規雇用を働きかけたり、実際出向いて求人開拓をしたり、努力しているという話も聞いています。引き続きそのようなことを進めて、多くの方が特別養護老人ホーム等へ就職できるように努めてまいりたいと思います。ただ、各都道府県でばらつきがあるみたいなので、取り組み状況がかんばしくないところへは協力な指導をしていきたいと思っています。
要求14. 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、短期入所生活介護、通所介護における機能訓練指導員は、視覚障害者に適職と考えます。今後の介護保険見直し時に、機能訓練指導員加算を廃止しないでください。
回答: 現在のところ機能訓練指導員加算の廃止は考えていません。

次に、参加者から質問をしたり、視覚障害者の厳しい現実を訴える発言があり、厚労省の方と意見交換しました。ただし、収録テープがよく聞き取れなかったので割愛します。

(文責 伊藤慶昭)




シンポジウム報告

当会は、2004年10月31日、東京都障害者福祉会館において、職場介助者制度をテーマに講演会とシンポジウムを開催しました。参加者は約30人。

冒頭、田中会長は、「職場介助者制度の助成が10年間で切れてしまうことを何とか延長させたいという切実な要求がある。」と、開催の主旨を述べました。最近特に驚いたこととして、厚生労働省が10月19日公表した障害者雇用実態調査結果について触れ、「この5年間で視覚障害者の雇用者数の推計値が4万3千人から1万7千人へと60パーセントも減った。厚生労働省当局は前回調査時点で50歳以上の人が5年後の時点で、定年退職あるいは早期退職制度などにより退職したためではないかとしているが、やはりその大きな原因は、経済不況による雇用情勢の悪化、リストラによる解雇が視覚障害者をはじめとする社会的に弱いところにしわ寄せされた結果ではないか。今後、より一層の視覚障害者の雇用対策の充実・強化を求めていきたい。」と述べました。(本誌「厚労働省交渉報告」参照)

講演の部では、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構助成審査課長の村上博夫氏が「視覚障害者の雇用に関する助成制度の現状」と題して講演を行い、今日の各種の助成金制度が創設された経緯、視覚障害者に利用できる助成制度、利用者の利便性向上のために改善・努力してきた点(注)について解説し、従業員301人未満の企業に対する報奨金の支給要件についてや在籍出向社員の作業設備などについての具体的な質問にも丁寧に答えていただきました。

(注) 改善・努力について:利便性の向上を業績の目標値に掲げている。申請手続きの簡素化。介助者を委嘱する場合、回数制限をなしとした。配置から委嘱へ、委嘱から配置へとの変更を可能とした。

また、村上氏は講演の中で、非公式な集計としながらも視覚障害者にかかる職場介助者の認定件数を明らかにしました。それによると、平成10年度以降平成15年度までの認定件数の総数は、配置(事務的業務のみ対象)82件、委嘱139件であり、委嘱のうち、事務的業務は11件、事務的業務以外は128件となっていました。

ちなみに、配置、委嘱ともに平成14年度以降は大きな伸びをみせており、配置の場合、例えば平成11年度からは毎年大体8から9件だったが、平成15年度は23件、同様に、委嘱の場合でも、毎年18から19であったのが、平成15年度には44件となりました。

続いて、「視覚障害者の職場介助者制度のあり方について」と題するシンポジウムでは、内田邦子(雑草の会職員)、上薗和隆(点字印刷ビギン代表)、荒川明宏(株式会社ラビット代表)、新井健司(川崎市職員)の4人の各氏から発言をいただきました。

点字出版に従事している内田、上薗両氏からは、ともに働く場の確保ということから創設された小規模事業所だが、「狭い市場の中でようやく安定してきたところで、助成金が切れることは深刻な問題だ。点字文化を守り、雇用の場を守るために、特例としてでも期限の延長を認めて欲しい。」「この12月で助成金が切れると、営業利益を上げることで介助者にかかる経費を生み出さなければならないが、受注が増えない限り存続は難しい。とにかく今はやれるところまでやってみるしかない。」と、それぞれ厳しい状況を語りました。

荒川氏は、プログラマーとして雇用されていた時も、経営者としての今も、やはり介助者の存在は視覚障害者が能力を発揮するためには欠かせないと語りました。これまで三度の転職経験から、最初就職した時、皮肉なことに、周囲が暇な時に自分に仕事が回ってきて、周囲が忙しい時には自分は仕事がなかったのは、忙しい時は仕事の説明をする人がいないことと関係していたと気付いた」、また、「介助者のいない自分は4年、介助者のいた友人は10年勤めたが、この差は何なんだろう。当時、情報不足と周囲に対する気兼ねから、自分は介助者をあえて要求することはできなかった。」と述べました。さらに、「視覚障害者には介助者の配置とIT研修などのサポート体制を保障することで、できる仕事は確実に広がるだろう。」とも指摘しました。「現実には、IT環境が整っても、研修やサポート体制がなく困っている視覚障害者が多く、勤務時間外に自腹を切ってでも何とかしようという人もいる。」このような現状を受けて、「ビジネスサポートクラブ」をスタートさせ、事業主と当事者の間で、双方のパイプ役としてのビジネスを展開し始めたところだと語りました。

国の制度として公務員に対する職場介助者制度がない中で、新井氏は、労働組合への理解と協力も得ながら、長年の実績の蓄積により、川崎市独自の視覚障害者に対する職場介助者制度の実現までの経験を報告しました。その具体的な内容については、ご自身の人事異動にともなう変遷を経ながら、今日、「川崎市視覚障害者補助非常勤嘱託員設置要綱」(総務局人事部人事課、平成13年5月1日施行)に収められていることを紹介しました。

当会役員で、日本盲人職能開発センター所長の篠島永一氏は、「事務的業務への介助者の件数は予想以上に少なかった。視覚障害者にとって職場介助者制度は不可欠で、平社員であろうと、管理職であろうと、また、経営者であろうと、介助者をうまく活用することで、その持てる能力を十分発揮できるのではないだろうか。10年で介助者を不要とすることについては、視覚障害という障害の特性から考えて問題があるのではないだろうか。」と感想を述べました。




ヘルスキーパーは、今

日本視覚障害ヘルスキーパー協会
会長 加藤 武司

長い間続いた日本経済の低迷も明るさが見え隠れするようになって参りました。

ヘルスキーパー職にとっても厳しい試練の時期であったように思います。しかしながら、この試練とも言うべき時期を経験することによってヘルスキーパー職は、大きく変化したように思います。

以前は、企業に雇用され、その施設内で従業員に対し“あはき”の施術を行う者と言う認識のみに留まっていたと存じます。また、視覚障害を持つあはき師にとっても誰もが知っているいわゆる有名企業に籍を置き、報酬や勤務時間・休日がはっきりとしていると言う点に少なからず魅力を感じておられるでしょう。現在においてもその認識や魅力に間違いは、ないでしょう。

しかし、現在のヘルスキーパーを言い表すには、不充分と申し上げなければなりません。何故ならば、企業は厳しい競争の中を生き抜くために雇用のあり方や人事制度の改革を行ってきたからです。ご承知の通り、契約社員を増やしたり、アウトソーシング(外部業務委託)の活用がなされ、雇用環境は厳しいものとなっております。また、わが国の企業でも成果主義が台頭し、企業への貢献を客観的に評価し、処遇が決まる仕組みが採用されて参りました。企業に雇用される者として、ヘルスキーパー職にも同様の影響を受けざるを得ませんでした。

そのため、ヘルスキーパー自身や企業は、ヘルスキーパー業務そのものの“質”に注目するようになりました。ともすれば、企業は障害者雇用率の達成と言うコンプライアンスばかりに力点を置き、障害者雇用を進めてきたように思われます。コンプライアンスだけでなくより適切な人員配置と効果が求められるようになってきたのです。

私たちのクライアント(被施術者)となる従業員もこのような変化に直接さらされ、さらに著しい技術革新も加わった新しいオフィス環境で働いておられます。その多くが心身に不調を抱えていることは、調査によっても明らかです。ヘルスキーパーは、この不調にどのように対処出来るのかが問われております。単に一日に何人のクライアントを施術したかという量的な指標だけではありません。不調を寛解せしめる有効な手段を持つ事、すなわち、(1)クライアントが受容されていると感じられる施術態度(2)エビデンスに基づいた施術 (3)労働衛生の知識 (4)セルフケア指導 …等がそれにあたるでしょう。また、これらは、OJT(社内研修)では、難しいことから何らかの形で卒後研修が必要になると思います。最後に申し添えるなら、より高度で専門的な知識・技術も大切ですが、むしろ初めて白衣を身に付けた時の気持ち「不調を訴えている人に手や指を当てて何とかして差し上げたい」を持ち続けていただきたい。手や指を通して伝わってくるクライアントの安堵感が最良の報酬ではないでしょうか。

(編集部注)コンプライアンス=1 要求や命令への服従。 2 外力が加えられたときの物質の弾力性やたわみ強度。(『大辞泉』)




私の職場

特別養護老人ホームの機能訓練指導員
稲垣 実

私は、特別養護老人ホーム(以下特養と称します)に勤めて21年になります。現在は、東京都内の足立区にある社会福祉法人東京蒼生会「特別養護老人ホームさの」に平成3年より勤めています。

介護保険導入以前は、足立区立(公設民営)でした。その時に区民から愛称を募集し施設を総称して「ゆうあいらんど・さの」と名づけられました。

導入後は、建物などのハードを足立区から法人が借り受けて経営しています。その条件として、足立区からは健全な経営が求められています。

建物は、1階がデイサービスセンター・介護支援センター・介護支援事業所で2階・3階が特養です。各フロアーは、回廊式でバリアフリーになっています。

訓練室は3階にあり機能訓練や物理療法の用具が置いてあります。拡大読書器やパソコンは訓練室にあり、主な業務はここで行っています。

特養の定員は100人で、ショートステイが6人です。利用者さんの年齢は、50才から102才までと幅広く、7割が女性です。約6割が痴呆症で3割が脳血管障害の方で、平均介護度は4となっています。

私の仕事は、主に利用者さんの機能改善・維持のために訓練室や居室で運動訓練・マッサージ・物理療法などを行っています。

毎日の日誌や個人記録は、弱視なので晴眼者用パソコンを使用し、文字を拡大して作成しています。文書処理が多く、文書を読む事と、確認印を押す事は、拡大読書器を使って処理をしています。そのほか車椅子や補装具の購入・修理、ケアプランへの情報提供などです。

機能訓練業務以外には、看護係長として看護師と非常勤の理学療法士の人事・労務管理・監督を行っています。また、施設の広報誌の作成にも携わっています。特養では、機能訓練指導員として専門技術だけでなく、利用者さんはもちろん他職種や家族に対するコミュニケーション能力や調整能力が求められています。特養は、視覚障害者にとって建物がバリアフリーで対象者は入所者だけなので働きやすい職場だと思います。

私は、いろいろな役割を果たしながらも、本来業務を忘れないように心がけています。一番の役割は、利用者さんの訴えや話しを聞くことだと考えています。利用者さんの「痛みの訴え」は、ストレスや不安へのシグナルでもあり、そんな時は、時間をかけてよく話しを聞くことにしています。しかし、会議なども多く利用者さんからは「どこに行っていたの」、休日の次の日には「寂しいから休んじゃダメよ」などと、私を待っていてくれます。話しを聞くだけではなく、それをケアサービスに反映できるようにしています。

今、特養の介護職や看護職員は、利用者さんの話しを聞く余裕もありません。利用者さんの訴えや話しを受けとめ「心のマッサージ」をしてあげられるのは、私たちだけなんです。




静岡市ワーク春日のご紹介

(ここに掲載する施設から、雇用連に連絡をいただきました。先進的なお仕事をされているようなので、紹介文を寄せていただきました。(編集部))

静岡市ワーク春日は、平成11年10月に開所し、静岡市が設置し、静岡市社会福祉協議会が運営をしている身体障害者通所授産施設です。この施設は、平成2年に静岡県視覚障害者協会が視覚障害者の授産施設として市へ陳情をし、設置した施設です。

視覚障害者の職域拡大を目指していきたいという思いから、設立して頂いた。その為、視覚障害者も不自由なく働ける授産科目があります。

当施設は、静岡県内でも珍しくITを活用した授産科目で事業展開を図っています。授産科目は、点字印刷・電話業務・録音速記・DTP・データ入力・システム開発等です。

また、ITを活用することを中心とした施設ということで、社内LANを組み一般就労に向けてITを活用して事業を行っています。

現在、視覚障害者及び肢体不自由者がおり、平成17年3月の利用者数は、22名。(定員30名)です。今回は電話業務についてご紹介します。

電話業務室は、視覚に障害を持つオペレーター3名が所属しています。CTIシステムに音声ソフトを組み込む事により、障害を持つ私たちでもハンディなく業務を行う事ができます。

「CTI」とは全国でも初めて音声ソフトを組み込んだ電話業務システムでコールの受信、発信などの作業やお客様からのご意見、こちらからの質問に対する回答など全ての操作をテンキーだけで行います。

オペレーターは、片方の耳でお客様の声を聞き取り、もう片方の耳でパソコンから流れてくる音声を聞き応対します。コール前、コール終了後のデータ入力・集計などの作業は身体に障害を持つ方が行います。

業務内容としましては、イベントなどのご案内コールを始め、アンケート調査・認知度調査・商品やサービスによる満足度調査・チケットおよび商品サンプル等の受付コールを行っています。その他にもイベントなどの司会といった業務も行っていますが、視覚に障害があってもハンディなく行えるよう司会で使われるマニュアルを点字や文字を拡大するなどいろいろ工夫しながら取り組んでいます。

業務以外では毎年行われているアビリンピック県大会の電話応対競技やユーザー協会で行われている電話応対競技などに参加するなど、電話応対でのスキルアップを目指し、取り組んでいます。一昨年前からは、アビリンピック県大会での司会の業務も行っております。今後は電話応対競技などに積極的に参加し、電話応対のスキルをあげていきたいと考えています。

興味のある方は以下までご連絡ください。
静岡市ワーク春日 〒420-0823 静岡市春日3丁目3-10
Tel : 054-221-1630 Fax : 054-221-1631
E-Mail : w-kasugaアットマークpo3.across.or.jp



全国視覚障害教師の会のご紹介

(雇用連でも視覚に障害のある教師の方の雇用継続問題に取り組んだことがあります。このたび、当事者のみなさんの会の紹介をお願いしたところ、ホームページにも掲載されている、次のような案内文をいただきましたので掲載します。(編集部))

全国視覚障害教師の会とは

★全国視覚障害教師の会をご存知ですか?

全国視覚障害教師の会は、視覚障害を持ちながら教壇に立ち続ける教師たちによって、1981年に結成されました。

教職の途中で視覚障害を負った教師は、どのように生き、職務を果たしていくことができるでしょうか。また、教職を志望する視覚障害学生は、どのようにすればその希望を実現できるのでしょうか。

私たちは、一個の人間として職業選択の自由や労働基本権を保有しています。しかし、これらの固有の権利は、障害者にとって、決して平等に保障されているとはいえない現状があります。私たちは、教育実践を通して、無理解と偏見を克服する道を切り拓いていきたいと思っています。授業の工夫や日常の教育活動について経験や情報を交換し、職場や地域の問題を話し合う中で、お互いに励ましあい、研修を深めて行きたいと思っています。

生徒と教師が全人格的な関係の中で成長することが、教育の基本理念であり、心が見えてくる教育こそ私たちが目指す教育の理想像であります。このような教育を創り上げていく時に、視覚障害は決して教師としての基本的な要件を損なうものではありません。今日の学校教育の中では、むしろ積極的な存在意義さえもあると言えるでしょう。障害を持つ人も持たない人も共存できる学校でこそ真の教育を実践できるのではないでしょうか。

視覚障害の悩みを持つ教師の皆さん、一緒に問題解決の道を考えてみましょう。ひとりの体験、ひとつの経験が、多くの視覚障害教師を励まし、新しい展望を開く力になります。

教職を志望する視覚障害学生の皆さん、あなたたちの前途に立ちはだかる困難を乗り越えるために共に努力しましょう。

全国の教職員の皆さん、教育に関心をもつすべての皆さん、どうか本会の活動をご理解、ご支援ください。そして、障害を持つ人と持たない人が共に生きる、心の通い合う社会を作るために一緒に努力しましょう。


★本会の歩み

※ 結成

1981年5月、西日本在住の教師、学生が数人大阪に集まり、本会を結成しました。

当時は、途中で視覚障害者となった教師が、現場復帰することなく退職に追い込まれたり、また、視覚障害学生が新採用はおろか、点字受験さえも拒否される例が相次いで起きていました。

1981年の国際障害者年の追い風に乗って、82年、大阪府において、全盲者の普通校への新採用と盲学校から普通校への転勤が実現しました。これらに続いて、全国各地においても視覚障害教師の現場復帰や新採用が、地元の人々の支援を得て少しずつ実現していきました。

※ 活動を通じて拡大。

年1回の定例研修会で、会員間の経験交流と研修を行なう他、地区教育委員会、民主団体などの後援を得て、視覚障害教師による「教育実践報告会」あるいはシンポジウムを開催し、各地で視覚障害教師に対する理解を広める活動を行ない、その都度会員が増えていきました。

※ 実践報告集を出版

1987年、会員個々の実践を集めた「心が見えてくる」を、1997年には、同じく教育実践集「目は見えなくとも教師はできる」を出版しました。これらは、録音テープや点字本として、各地の点字図書館に所蔵され、また、後者は点訳本がナイーブネットに登録されています。視覚障害教師たちの真摯で生き生きとした教育活動を伝えて、多くの読者から好評を頂いています。

※ インターネットの活用

2001年、本会に対する世の理解を得るとともに、孤立しがちな仲間の人々にとって近づきやすい存在となるためにインターネットのホームページを開設しました。

2002年には会のメーリングリストを開始し、会員間の迅速な情報交換と親睦に役立てています。


★全国視覚障害教師の会には、このような人たちがいます

会員数は70人を超え、校種は、小・中・高・養護・盲・大、などです。担当教科は、国・社(地歴、公民)・数・理・英・音などですが、比較的社会(地歴、公民)、数学、英語が多くいます。

中途失明の人もいれば、全盲で新採用された人もいます。そして、全盲者と弱視者の比率はほぼ半々です。中途失明者の中には、病気による人、交通事故による人もいます。休職して一定期間リハビリ訓練してから現場復帰した人、通院しながら勤務を続けている人などがいます。年齢層では、20代から定年退職した人までいます。

「人事異動」においても、晴眼教師と同様に転任もしています。校種を変えての転勤もしています。

新採用は、盲学校から大学を経て、といった場合がほとんどです。統合教育を経た人たちの教職進出はこれからでしょう。


★本会の目的

(1) 教職にある視覚障害者が、その職務を遂行し得るように、互いに情報の交換や授業方法の交流を行い、合わせて職場における理解を深めるための工夫などを研修しあう。

(2) 在職中の教師が今後中途視覚障害者になったとき、当該者の教育職継続を可能にすべく、資料・情報を提供し、当該者や周囲の関係方面に理解を促す。

(3) 視覚障害を持つ人が、将来教育職を志望するとき、我々の実践状況を、当該者および周囲の関係者に提示し、その実現を支援する。


★こんな人が会員になれます
正会員… 視覚障害者で、現在教育職に従事している人、将来教育職を希望する人、退職した人。
教育職に従事し、視覚障害者になる恐れのある人。
賛助会員… 本会の趣旨に賛同する人。
会費
年間 …
3,000円

★連絡先
山口 通 (代表)
〒181−0013 東京都三鷹市下連雀9−7−21−204
TEL : 0422−44−8856

馬場 洋子 (事務局長)
〒655−0029 兵庫県神戸市垂水区天ノ下町10−26
TEL : 078−709−2208
e-mail : yoko.babaアットマークnifty.com

佐藤 博美
〒851−2102 長崎県西彼杵郡時津町浜田郷148−2 メゾンド向陽202
TEL : 095−881−7421
e-mail : satohiroアットマークzg8.so-net.ne.jp

松田 祥男
〒728−0021 広島県三次市三次町1392−2
TEL : 0824−63−5811
e-mail : madasao-26アットマークybb.ne.jp

原 哲夫
〒390−0304 長野県松本市大村492−3
TEL : 0263−46−9611
e-mail : haratアットマークgo.tvm.ne.jp

松本康宗
〒042−0914 北海道函館市上湯川町62−13
TEL : 0138−57−2097


全国視覚障害教師の会ホームページアドレス
http://www1.pbc.ne.jp/users/jvt/