平成16年4月22日
厚生労働大臣 坂口 力 様
職場介助者に関する要望書
全国視覚障害社雇用促進連絡会
会 長 田中 章治
いつも視覚障害者の雇用促進についてご理解ご協力いただきありがとうございます。
さて、職場介助者制度について、視覚障害者が一般社会で働く上で、大変有用であることは言うまでもない事と思われます。当初3年であったこの制度が、現在10年と延長されたことで、その間働き続けられたことは、この制度があったればこそで、大変感謝しています。しかし、まもなく10年の期限が切れるところが続出し、問題になることが予想されます。
このたび要望させていただいている小規模作業所の場合、あと2年となり視覚障害者が、引き続き働き続けられるかどうか、死活問題になっています。この作業所では、収入も限られており、視覚障害者をサポートできるほど健常者を雇い入れる余裕はないのです。また、点字印刷所を運営するには健常者の手がどうしても必要となっており、運営そのものが出来なくなってしまうのです。また、視覚障害者がどう努力しても視覚障害がなくなるわけではなく、現在のIT機器等の発展をもってしても視覚を完全に補うことはできません。
このようなことから、当分の間、職場介助者への助成制度を延長していただきますよう要望いたします。
* 直接、当会に要望を寄せられた点字印刷を主たる業務としている雑草の会で働く視覚障害者の内田邦子さんの文章を添付させていただきます。ぜひとも、実情をご理解下さい。
要 望 項 目
視覚障害者に対する職場介助者の委嘱、又は、配置に係わる助成制度について、その対象となる期間を延長する特例を設けてください。
[以上]
─ ここまできた職場と私 ─
点字印刷共同作業所
雑草の会 内田 邦子
雑草の会へ入所したのは、1992年、中途失明の私は、点字はもとよりパソコンもあまり使いこなせず、ワープロをほんの少しやるだけでした。仕事はあまりなく、点訳やカセットテープの販売、請求書や領収書の発送、パートさんの給料計算などでした。
印刷機に右人差し指の先をはさみ、切断するという事故を契機にキチンと雇用関係を結び正式に雇用保険に入り職員となりました。
その後、雑草の会を知っていただくことを目的に、「雑草の会情報」という会報を発行することになり、次第に雑草の会を支えてくれる人達が増え、仕事も増えてきました。私は、事務職員として、点訳、校正、請求書、領収書、決算書の作成、発送作業などの仕事をしていましたが、仕事が増えるにつれ、視覚障害の私だけでは到底こなせなくなりました。
でも点字の仕事は作業量に比べて、利益が少ないこともあり、職場介助者を助成制度を使って雇用するのがせいいっぱいでした。その後も、会そのものの運営は、団体機関紙の点字印刷・発送、点字図書の出版、点字名刺作成、録音物のプリント・発送などでした。
決算書など当初は、点字で書き、職場介助者に普通字で書いてもらったりしていました。音声電卓でやっていたので入力ミスをすると何回もやり直さなければならず、そこでパソコンを利用して自分なりに事務作業をすることを思い立ちました。盲人用の会計ソフトを探したのですが、なかなかなく、当時、MS-DOSでロータス1-2-3でやり始め、自分なりに関数や数式を使って決算書を作りました。
4年前、労働省との懇談の中で、障害者職業総合センターで通所で教えてくれることが分かり、すぐ連絡をとったところ、週1回6ヶ月の期間で教えてくれることになりました。ちょうどそのころエクセルに変わる時期だったので大変助かりました。エクセルの本を点訳してもらったり、点訳されたものを取り寄せても、マウスを使用する操作の解説で、キーボードのみでのやり方が書かれておらず、参考になりませんでした。
幕張のセンターへは、自宅から2時間かかりましたが、10時から3時まで先生がついて教えてくれたので、仕訳帳から貸借対照表まで視覚障害者の私でも出来るようになりました。
今では、預貯金の通帳を見てもらったり、文書を書いた後、レイアウトや誤字などを見てもらうだけで出来るようになりました。出勤簿、賃金計算表も時間を入れるだけで計算されるようになっています。また、印刷の代金の見積もり計算も複雑でそれも時期を逸してしまうと仕事が取れなくなることもあり、フォームをつくって簡単に見積もりが出せるようにしました。請求書を出す場合も、見積もりがデータにあるので自分で書くことができ、印字を確認してもらって出すようにしており、売掛金は、未収が一目で分かるように、住所録もデータベースを作り封筒やラベルの印字が出来るようになりました。その際にも健常者が見てくれるので、安心して仕事ができています。
ただこれだけ出来るようになっても音声でやっているので、メモリーが一杯になったりすると音が出なくなったり、読まない部分がでてくるので、自分だけでは解決できないのが残念です。先日ウイルスに感染し、よくわからないままずっと使用していたら、パソコンがおかしくなってしまいました。ウイルス対策ソフトも今では必ず導入しなければならないのですが、音声で読まない部分があり、見てもらうことがどうしても必要なのです。
点訳も視覚障害者単独ではできませんが、介助者に原稿を読んでもらえば行うことができます。
最近では、メールで入稿されることが多くなり、健常者に読んでもらう必要がないので、やりやすくなりました。でも漢字の読みや、「す」に濁点か、「つ」に濁点か、市区町村の読み方等、調べなくてはならないことがたくさんあります。
そのような場合には目を借りなければなりません。
点字の仕事の中で、もうひとつ大事な仕事があります。点訳されたものを原稿と読みあわせをすることです。難しいものでしたら2〜3回します。この場合、原稿のレイアウトを確認してもらうなどの作業があるので、いくらデータで入稿されたとしても、紙ベースのものを見てもらわなければならないのです。
雑草の会の仕事でもうひとつ大切なものとして、顧客との打合わせがあります。表紙の色、文字の大きさや、レイアウトにいたるまで、介助者に確認してもらいながら話をつめます。また、表紙の選定、製本の方法など製造元を探したり、見に行ったりします。雑草の会では4〜5種類の製本方法があり、その製造元もそれぞれ違います。お客さんによっては、任されることも多く、製作する物の内容に合わせてこちらで判断しなければなりません。その際にも介助者の説明によって、いろいろ判断しながら仕事を進めます。
私はこの仕事を通じて色々なことが出来るようになり、大きな自信が出てきました。最初、パソコンも今ほど便利ではありませんでしたが、それなりに習熟するようになり、それにつれて仕事の量が増え、難しい仕事も出来るようになったと思います。また、視覚障害だからといって阻害されることなく私に付き合ってくれた、介助者の存在があればこそ出来たのだと思います。